二次電池負極材料である黒鉛の製造工程に用いられるホソカワの装置を紹介します。
二次電池活物質は、バインダや溶媒と混合して集電体のアルミ箔(正極)または銅箔(負極)に塗布して乾燥した後、かさ密度を高めるためにプレスして電極となります。ここでは負極活物質(充電時にリチウムイオンを受け取り、放電時に電子を放出する材料)のひとつである黒鉛材料の製造工程に用いられるホソカワの装置について紹介します。
黒鉛材料には大きく分けて、天然黒鉛と人工的に合成された人造黒鉛の2種類があります。
天然黒鉛は、人造黒鉛と比べて安価で黒鉛化度が高く、リチウムイオンを多く吸蔵できるため、電池の大容量化に有利ですが、粒子形状が鱗片状であることが多く、かさ密度が低いため、電極密度が低く、電池容量を大きくすることは困難です。また、集電体上で平面状に配向しやすいため、電解液とのぬれ性が良くありません。しかし、天然黒鉛のこれらの問題を解決できれば、人造黒鉛を用いるよりも原料コストを大幅に抑えたリチウムイオン二次電池の大容量化の可能性が高まるため、自動車用途での期待は高まります。天然黒鉛の問題解決には、電極密度向上策として粒子の球形化(圧密化)、ぬれ性改善策として表面改質が用いられます。
一方、人造黒鉛は、製造エネルギーが非常に大きいため高価です。また、黒鉛化度は天然黒鉛よりも劣ります。しかし、人造黒鉛は組成(黒鉛化度の異なる領域を粒子内部に分散させるなど)や形状制御が可能という大きな利点を持ち、黒鉛化度が高過ぎないため電解液の分解抑制も容易です。これらの特長から人造黒鉛を用いることで電極密度を大きくできるため、大容量電池に使われます。人造黒鉛の場合、黒鉛にする前の工程や黒鉛化後の処理に高度な粉体技術が必要です。また、活物質の高性能化には、粒子表面の結晶状態を制御する工程が不可欠です。
黒鉛は、水とのぬれ性が非常に悪いため、有機溶剤を用いて集電体に塗工するスラリーを作製せざるを得ません。水系の溶媒で代替する方法もありますが、混合が難しく、一般的には黒鉛粒子自体を水にぬれ易くする手法がとられます。
ACM パルベライザ ACM-15H
人造黒鉛では、微粒子を得るために粉砕工程が必要となる場合があります。この場合、ロートプレックスやハンマミルで粗粉砕を行い、その後、マイクロパルベライザとミクロンセパレータを組み合わせたシステムやACMパルベライザなどを用いて平均粒子径数十ミクロンにまで微粉砕します。
電池容量の向上を目的にした粒子の充填率向上には、二つの手法があります。ひとつは主に天然黒鉛に用いる方法で、粒子の角を削り、微粉と分離し、球形化された粒子を得る方法です。もうひとつはピッチなどのカーボン系の柔らかい材料を黒鉛粒子表面にコーティングし、その後黒鉛化する方法です。一般に黒鉛の球形化と呼ぶ場合、多くは前者の方法を指します。
ファカルティ F-430S
黒鉛球形化ファカルティ フロー
天然黒鉛粒子は、表面に大小さまざまな凹凸を持ちます。この凸部を削り取ることで粒子を球形化し、充填密度を上げる装置がファカルティです。当装置はハンマの高速回転によって目的に適したエネルギーを与える分散部と微粉除去を行う強制渦流型の分級部があり、ケーシング中央側面部に粗粉製品の排出口があります。微粉は分級ロータを通過して集塵機に運ばれて排出され、一定時間衝撃作用を受けた粗粉製品は、ケーシング中央側面部の排出口から取り出されます。この工程では、摩砕(表面粉砕)作用による球形化を行うと同時に微粉が発生しますが、微粉は遠心力型気流式分級機によって装置外に排出されます。
ノビルタ NOB-450
人造黒鉛も球形化(圧密化)は可能ですが、天然黒鉛に比較して原料コストがはるかに高いため、微粉の発生を抑える必要があり、粉体に機械的な圧縮・せん断力を作用させる手法をとります。粒子同士にせん断力を与え、黒鉛超微粒子を粒子表面に固定化して球形化するかまたは粒子の塑性的変形によって球形化します。この処理にはノビルタやメカノフュージョンを用います。
ノビルタは、水平円筒状の混合容器内で、特殊な形状のロータが周速30m/s以上の高速で回転し、衝撃・圧縮・せん断の力を粒子個々に均一に作用させる構造をとります。
また、メカノフュージョンは、回転容器に投入した粉体原料を遠心力で容器内壁に固定し、インナーピースによって繰返し強力な圧縮・せん断力を与えます。循環型メカノフュージョンでは、回転ロータ壁面のスリットを通ってロータの外側に送られた粉体原料が、ロータに付いた循環用ブレードでロータ上部に搬送され、回転ロータ内に戻ることで再びインナーピースから強力な力を受けます。
どちらの装置も本体ケーシングは、水冷ジャケットを備え、弱熱性原料に高いエネルギーを加えても品温の上昇を抑制できます。
メカノフュージョン AMS
天然黒鉛および人造黒鉛のさらなる高性能化には、コーティング処理を用います。粉砕処理された黒鉛粒子は特に高い表面活性を持つため、その抑制あるいは制御を目的として、黒鉛粒子表面にピッチや他の炭素または炭素源のコーティングを行います。この処理にはノビルタやメカノフュージョンを用います。
ペネトアナライザ PNT-N
黒鉛は、疎水性が強く、集電体への塗工のためのスラリー化に水が使えませんが、有機溶剤は取扱いや回収に問題があるため、水分散系のSBRなどを使って黒鉛粒子の親水化を行います。また、黒鉛粒子表面の化学的な状態を変化させることで、親水化を図る場合もあります。
たとえば、ノビルタを用いて黒鉛粒子表面に機械的なエネルギーを与え、メカノケミカル反応を起こして親水性を付与する方法です。同装置を用いてシリカやチタニアなどの親水性ナノ粒子を表面に複合化し、さらなる親水化を図る場合もあります。
この親水性の評価には、ぬれ性評価装置ペネトアナライザを用います。
表面改質の他の事例としては、ナノ粒子を黒鉛粒子に乾式被覆処理し、充放電容量や不可逆容量比を改善する処理やポリフッ化ビニリデンPVDF系のバインダ粒子を黒鉛粒子上に付着させて集電体あるいは黒鉛粒子同士の接着強度を高め、放電レートに依存する電気容量変化の抑制を図る場合もあります。
黒鉛球形化を示すSEM
黒鉛原料(円形度 0.85)
黒鉛球形化品(円形度 0.94)
黒鉛圧密化の例
※円形度測定:FPIA
※タップ密度測定:パウダテスタ PT-X
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