対数は複雑な掛け算や割り算を、足し算と引き算でざっと(つまり正確ではないがそれなりに近い数字を)求めるために考え出された関数です。
もともと太陽系の惑星の軌道を計算し、法則性を見つけようとする試みがありました。現在ではケプラーの法則として知られています。この計算が桁数が多く、かつ回数が多いという厄介な代物でした。当時は計算機は存在せず、足し算はともかく掛け算は大変手間がかかる作業でした。
少し わき道にそれますが、なぜ軌道計算がされようとしていたのか?といいますと、惑星というものはその名のごとく、ほかの星と異なる妙な動き=まるで惑わすような動き、をすることから、地球が宇宙の中心(天動説)とすると、惑星の動きを説明するためには複雑なモデルが必要でした。一方、実は地球も惑星と同じく太陽の周りを公転しているとして軌道計算すると、複雑に見える運動は簡単に説明できる、ということが判明したのです。数学的に明瞭に説明できる、としたことにより教会による裁判を免れたそうです。
話を戻します。現在では対数は、桁が違うパラメータと、何らかの数の関係を表す際に用いられます。例えば次のグラフでは、横軸が10-9mから10-2mまで書かれていますが、普通の目盛のグラフで書こうとすると、書くことができないくらい横に長いか、目盛が細かすぎて役に立たないかのどちらかになります。また対数という関数の持つ様々な性質は、様々な現象の理論的な解析にも必須です。
対数の話のために、ちょっと軌道計算に話を戻しましょう。当時の軌道計算では、掛け算が大変ですので、三角関数の積和公式(この下で紹介しています)を使って掛け算を足し算に直していたそうです。
さて三角関数という単語を見ると「わけがわからない」と言われれる方がいらっしゃるかもしれません。ところが三角関数とは、直角三角形における他の二つの内角のうちどちらか[内角の和は180°ですから、どちらかで十分です]と、二つの辺の長さの割合の関係を表すために考え出されたというだけのものです。(角度をパラメータとして値が決まるので、角度の関数です)
この場合、考えられる辺の組み合わせは斜辺と高さ、斜辺と底辺、底辺と高さの三種類しかありません。 この割合(例えば斜辺と底辺の長さの比)は角度によって一定であり(三角形の大きさに依りません。相似、ということを中学生?のときに習ったはずです)角度が変わると少しずつ値が変化していきます。この変化の様子を表にまとめたものが三角関数の表と呼ばれている物です。ちなみに、斜辺と高さの比を表すのがサイン(sin、正弦)、斜辺と底辺の長さの比を表すのがコサイン(cos、余弦)、底辺の長さと高さの比を表すのがタンジェント(tan、正接)と呼ばれています。
斜辺の長さを1(cmでもmでもなんでもいいので)としたとき、ある角度における高さや底辺の長さが、その角度におけるそれぞれのsinとcosの値になります。単純ですね。でもこの単純な関係が、現代科学の基礎の一つになっています。回転運動、電気、流れ、画像圧縮[PCやテレビなど]などの原理や計算には必須です。
さて掛け算を足し算で計算するには、三角関数を使って次のように計算していたそうです。計算に使っていた積和の公式は、こんな形になります。
sinA×sinB = -(cos(A+B)-cos(A-B))÷2 ただしA、Bは角度
左の掛け算を右の足し算と引き算(一部割り算も入りますが二で割っているだけなので簡単です)で計算できることになります。でも、どうしてこれで普通の掛け算が計算できるのか?という疑問が出てくるかもしれません。
具体的に書いてみましょう。まず掛け算したい数字を 0と1の間の数字、0.いくつか、になるようにしておきます(たとえば6091×14527なら、0.6091×104と0.1453×105と考えます。ここでは有効数字を四ケタに揃えています)。次に三角関数の表のsinの列から、それぞれの小数に最も近いものを探し出し、該当する角度を読み取ります(A、Bを見つけ出す)。二つの角度を読み取った後、二つの角度の和および差を計算し、それぞれの角度におけるcosの値を三角関数の表から探します。それぞれのcosの値を引き算して、二で割ります。最後に、最初に桁を落とすために割り算していた分の桁を戻せば(この場合104×105=×109倍します)掛け算を足し算と引き算で計算できることになります。
この方法だと有効数字分しか正しい結果が出ませんが、昔は掛け算はとても大変でしたから、三角関数の表を使ってでも、足し算と引き算(積和の公式では、最後に二で割りますが、これは半分にするだけなので簡単です)だけでできるというのは優れた方法だったのです。
ただし計算のためだけに公式を使うのは面倒です。さらにsinの値から角度を求めること二回、二つの角度からcosの値をそれぞれ探し出すこと二回、すなわち表を計四回探すことになるため面倒です。
そこで考え出されたのが対数という考え方でした。
教科書だと
yx=zのとき、x = logyz [log はログと読みます]
となるlogyzという関数を対数と定義して、特にyが10の時を常用対数と呼ぶ、そして様々な性質があって、という解説になっているかと思います。数学としては正しい説明の方法だと思いますが、何の為にあるのかわからない、というイメージをもたれることが多いような気がします。(一部、指数との関連を強調している物もありますが)
対数の性質を利用すると掛け算や割り算(これは対数では引き算で計算できます)を足し算や引き算で実施できます。それには対数の公式 log xy=log x+log y を三角関数の積和公式と同じような感じで使います。まず、xとyの対数の値を対数表から読み取ります。それらの値(つまりlog xとlog y)を足した値か、それに近い値を対数表から探し出し、その値になるような数値を逆引きすれば、それがxyの値です。
ちなみに対数が発明(公表)されたのは17世紀の初め、1614年、常用対数表が作られたのがその3年後(表を使うのは簡単ですが、表を作るのには、非常に長い時間が必要でした)
しかし、表をいちいち持ち歩くのは大変ですし、表から数値を探すのも、足し算するのも面倒、ということで、定規のような形にして容易に対数を使って計算ができる器具が発明されました。これが計算尺と呼ばれるものです。
計算尺が発明されたのは1632年です。発明されて以来、実に300年以上、複雑な計算が簡単にできる計算機として使われ続けました。
計算尺はアナログ計算機といわれているものの一つであり、乗除算はもちろん、対数、三角関数、平方根などが計算できます(アナログなので結果も概算ですが、それでも十分便利だったのです)。その利便性からエンジニアの必携ツールとされていました。ただし関数電卓の登場により、今日ではほとんど使われなくなりました。下の写真は計算尺の例です。
なお指数や対数がなぜ考え出され、どんな風に利用されているか、それをいろいろと突き詰めて考えていくとどんな面白いことがあるのか、といった解説として、このページの著者が知っている一般書としては、たとえば
「指数・対数 (図解雑学) 」 佐藤 敏明(著), ナツメ社
等が面白いかもしれません。