世の中には有機物というものがあります。炭素と水素、酸素(と窒素と硫黄)から構成される物質です。有機物には膨大な種類がありますが、もっとも簡単な構造をしているのが炭素一個に水素が四つ結合したメタン(CH4)です。メタンガス、あるいは日本近海に埋蔵されているメタンハイドレート(燃える氷というニックネームがついています)などで名前を聞かれたことがあるでしょう。
身の周りには有機物が溢れています。我々自身を含む、生物の体は多くの種類の有機物で構成されています。例えばタンパク質(皮膚、筋肉、爪や髪の毛)やホルモン、酵素などが有機物です。(骨などは無機物も含みますが)
生物の一種である松やハゼの木などのある種の木に、傷をつけると樹液が染み出してきますが、他の植物の樹液とは少し異なる性質を持っています。この樹液は単純な液体ではなく、蝋(ワックス。和ろうそくの原料でもあります)と油脂(常温で液状だと油といい、固体状だと脂といいます)の二種類があります。
これをひとまとめに”機”の脂(低温にすると固形化するため)、つまり樹脂と呼ばれました。ただし、樹脂といいながら実は動物などからも同じような性質のものが取れることが知られていますので、樹脂といっても植物性とは限りません。例えばミツバチが作る蜜蝋などがあります。
時代が進み、石油を原料として様々な有機物が合成されるようになり、そのうち天然の樹脂(特に蝋)と同じような性質をもつものが誕生しました。そこでこれを合成樹脂と呼ぶようになりました。よく知られている合成樹脂には次のようなものがあります。
(物質の名前が、ポリ「なんとか」、という形式になっています。これがポイントです。)
なお、当社のアプリケーションでよく名前を聞くのはPETやPA、粉砕ではPVCなどがあります。前者は固相重合と乾燥のページで、後者はE-PVCのページでそれぞれ詳しく紹介しています。
さて油脂は一般に、それを構成している分子の質量が1モル(mol)という単位量当たり、数百g程度であり低分子物質と呼ばれる物質の仲間です。なお、この1molあたりの質量を分子量、と呼びます。
高校一年~二年くらいまでに化学の授業で習う分子は、分子量が数十程度の物質ですので、数百といわれても”低い”というイメージがわかないかもしれません。
しかし先ほど紹介しましたポリ「なんとか」、という物質の分子量は少なく見積もっても10,000以上ありますし、ものによっては百万を超えることもあります。これと比べると確かに分子量が少ない、低い、ということになります。
さてポリなんとか、のポリ(poly)という言葉は「複数の」という意味がありますが、特に化学では「重合した物質」という意味を持ちます。
重合とは「なんとか」の部分が結合して繋がること、しかもそれが複数つながることを意味しています。まるで鎖の輪が別の鎖の輪に繋がっていき、ついには長い鎖になる状態に似ています。このため重合した分子のことを分子鎖、とも呼びます。
この鎖の輪の数は数個ではなく数百から数千個つながります。このため多数を意味するポリ、という単語を頭につけてポリなんとか、と呼びます。エチレン(化学式ではC2H6ですが、これだとどんな構造をしているかがわかりにくいため組成式で書くとCH3-CH3です。エチレンがたくさん繋がると、CH3-CH2-CH2-........-CH2-CH2-CH3となります。しかし...の部分は先ほど記した通り数百個はありますので書いていられません。そこで繋がっている部分=繰り返しの共通部分、のみを切り出して次のように書きます。
-(-CH2-)n-。このnを重合度と呼びます。固相重合では、このnを増やすことが目的です。つまりnが変わると、物性も変化する、ということです。
このように同じ構造(鎖の輪に相当)が繰り返してつながっている物質を総称して総称してポリマーと呼びます。
なお繰り返される構造一個は、単数、単一を表すmonoという単語を使ってモノマーと呼びます。モノマーが二個繋がると二を意味するdiを使ってダイマー(他の場合にはジ、と読むこともあります。アミノ基が二つでジアミン、など)、三個つながるとtriを使ってトリマーになります。これらの単語はギリシア語の数字から来ています。
さてポリマーの分子量は大変大きいため、高分子物質とも呼ばれます。
ポリマー以外にも分子量が大きい物質は存在しますが、ポリマーほど大きくなく、かつ種類もポリマーに比べると少ないため、特に断らない限り高分子とポリマーは同じ意味として扱われることが多いようです。
最後になりましたが、一番よく聞く言葉であるプラスチックとはなんでしょうか?
本来プラスチックという言葉は塑性という用語から来ています。塑性は英語でplasticityという単語です(カタカナ表記するとプラスティシティ。最後のityは「性質」を示す抽象名詞語尾ですので、物の名前にするときはこの語尾が消えます。よってplasticとなり、プラスチック、になります)
塑性とは物質に力を加えた時に永久変形が起こる性質(これの逆が弾性。バネとか低反発枕のもつ性質です。もちろんある程度以上の力をかけると塑性を示したり破壊されます)です。ポリマーは一般に熱や圧力を加えると変形します。変形の原因が取り除かれても形が元に戻りきらずに、あることろで変形が残る性質、すなわち塑性を示す物質であることから、プラスチックと呼ばれるようになりました。
ちなみにポリマーには、熱によって柔らかくなる熱可塑性樹脂(加熱すると溶けて形が変わります)と、熱によって硬くなりその後は加熱しても塑性を示さない熱硬化性樹脂に分けられます。もちろん加熱しすぎると燃えますので、その手前の話です。
左の写真が熱可塑性樹脂の例(食品トレー) 、右の写真が熱硬化性性樹脂の例(基板)です。
以上のことから言葉を分類してみますと、以下のようになります。
これらの違いは、日常生活では気にする必要はまったくないのですが、上記の様に微妙に違う意味があり、これらの材料を扱っている業界では使い分けています。例えば松脂を扱われる分野では松脂のことをポリマーとは呼ばず、樹脂と呼びます。