OD錠(口腔内崩壊錠)の製造工程に用いられるホソカワの装置を紹介します。
OD錠は水なしで服用できる錠剤です。手元に水がない場合や、他人に薬を服用していることを知られたくない時に便利であり、近年商品化が進んでいます。しかしOD錠は口の中で溶けなければならないため、従来の錠剤とは異なる品質と処方が要求されます。
錠剤
OD錠に限らず、一般的に錠剤は以下の物質で構成されています。
原薬:医薬品に含まれる有効成分。
賦形剤:一般に原薬量は非常に少なく、扱いにくいため、取り扱いやすくする、あるいは錠剤としての形を作り、かつ原薬を水分、紫外線などから保護するために使用します。(乳糖、結晶セルロース、でんぷんなど)
結合剤:賦形剤だけで固まりにくい場合に糊剤として使用します。(セルロース誘導体など)
崩壊剤:口腔(あるいは消化器内)の水分を利用して錠剤を崩壊させ、有効成分の放出を助けるために使用します。(デンプン、セルロース、炭酸塩、クロスポビドンなど)
滑沢剤:粉体の流動性を向上し、錠剤を成形するための充填や圧縮形成を助けるために使用します。(ステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油など)
被覆剤:錠剤を湿気や光などから守る、苦みを感じなくさせる、胃では溶けず腸で溶けるようにする、などの目的で使用します。(白糖、ワックス、高分子など)
吸水して膨潤するOD錠
またOD錠には、上記に加えて以下の性質が必要です。
性質1はOD錠として必要不可欠の条件です。これを実現するためには、錠剤を成形するための圧力や、原薬・賦形剤・結合剤などの物性、およびこれらの組み合わせなどが重要です。
性質2は錠剤一般に要求される性質ですが、強度を追求すると口の中で崩壊しにくくなります。このため適切な強度を与えるための処方が重要になります。
性質1と2については、化学物質の種類が影響することはもちろんのこと、同じ化学物質であっても、錠剤の原料となる粒子の大きさや形状、すなわち粉体特性によって大きく変化します。
したがって粉体特性の制御や評価は、従来の錠剤作成時よりも大きな役割を果たします。
また性質3は錠剤そのものを被覆する従来法では解決できません。したがって新たなプロセスの開発が求められます。
賦形剤粒子や結合剤粒子の大きさによって、錠剤硬度や崩壊時間が変化することが知られています。例えば横澤、丸山(第32回 製剤と粒子設計シンポジウム講演要旨集, pp.18-19(2016))は乾式直接打錠法により、メチルセルロース系の粉体を結合剤として使用した時、20μm以下の微小な粒子を使用すると錠剤硬度が高くなること、粒子径が小さくなるほど(最小4.3μm)崩壊性が良好になることを報告しています。
一方、マンニトールなどは超微粉砕するとかえって流動性が悪くなり、製剤に適さなくなります。このような様々な知見が、OD錠の品質向上に適用されています。
従来、医薬品材料の微粉砕(数十μm)には、ピンまたは粉砕ディスクをプレート状にした粉砕部を利用できる、ファインインパクトミル UPZが、超微粉砕(数μm)にはスパイラルジェットミル ASが多く用いられてきました。また、AS粉砕品よりも狭い粒子径分布を持つ製品が必要な場合には、遠心力型分級機を内蔵したカウンタジェットミル AFGが用いられてきました。
ファインインパクトミル UPZ
スパイラルジェットミル AS
カウンタジェットミル AFG
衝突型ジェットミル MJQ
しかしOD錠においては、従来より微細な粒子が求められるようになっています。このため高い分級精度と粉砕効率を持つ超微粉砕機である衝突型ジェットミルミクロンジェットQ型が注目を浴びています。この装置では結合剤として使われる、ある種の多糖類や被覆剤として使われるワックスなどを、スパイラルジェットミルやカウンタジェットミルよりも細かく、かつ高い処理能力で粉砕することが可能です。
OD錠は一般的な錠剤の服用時に比べ、舌のそばに置かれている時間が非常に長いです。このため薬の苦味を感じる時間も長くなり、服用性に問題を生じる場合があります。そこで苦味を感じさせる原薬、あるいは原薬と賦形剤の複合体をコーティングする手法が考案されました。
しかし、水に溶けにくい原薬が増えてきており、粒子径が大きいと溶けるまでの間、口の中でざらつき(砂状感)を感じるという問題があります。これを防ぐためには粒子径をできる限り小さくすることが必要ですが、微細化に伴って原薬のコーティングが困難になります。現在、医薬品粒子のコーティング技術として広く使われている流動層式コーティングでは、超微粉の流動化が難しく、コーティング液を噴霧しても被覆することが難しい。
そこで微粒子に、さらに小さな粒子を被覆できる乾式粒子複合化装置(ノビルタ NOB、メカノフュージョン AMS)が注目されています。この装置を使うと、粉末状の被覆剤を原薬微粒子に被覆することができます。
卓上型ノビルタ NOB
ノビルタ (高冷却型) NOB
メカノフュージョン AMS
粒子複合化の例(コーンスターチにフェニトインを乾式被覆)
これらの装置は、
といった特長を持っていることから、様々な研究報告が知られています。
例えば 原薬表面に添加剤を被覆させ、打錠性や溶出特性を評価した研究として、藤永、吉橋、米持、寺田、粉体工学会誌, vol.48, pp.618-624 (2011)などがあります。またDPIキャリアとして乳糖粒子を表面改質した研究には、M. Kumon, M. Suzuki, E. Yonemochi and K. Terada , Chem. Pharm. Bull. vol.54(11), pp.1508-1514 (2006)やQ. Zhou, L. Qu, I. Larson, P. J. Stewart, D. A. V. Morton, J. Powder Technol. vol. 207, 1-3, pp. 414-421 (2011)などを挙げることができます。
さらに近年、ノビルタを利用し、原薬を粉砕しつつ、球形の造粒物(20~40μm程度)を作成する報告がなされています。(例えば、丹羽、近藤、日本薬剤学会 第31年会講演要旨集、ラウンドテーブル2「球形粉砕法:乾式粉砕と球形造とのハイブリッド化」,61(2016)や K. Kondo, A. Kato and T. Niwa, Intl. J. Pharmaceutics, vol.483, pp.101-109(2015), K, Kondo, N. Ito, T. Niwa and K. Danjo, Intl. J. Pharmaceutics, vol.453, pp.523-532(2013)など)また、この方法で得られた粒子を核として、ノビルタにより乾式被覆できることも示されています(加藤、丹羽、近藤、日本薬剤学会 第31年会講演要旨集、p.140)。
これらの技術によって、OD 錠に適した性質を持つ粒子を作ることができると考えられています。
上述のようにOD錠の原料となる粒子は、従来の錠剤で使われていた原料粒子とは異なる性質が求められます。このため、(被覆済み)原薬粒子と賦形剤や結合剤等との混合、その後の打錠機への充填、打錠時などにトラブルを起こすことがあります。これを解決するためには滑沢剤の適切な混合手法の選択と運用、あるいは各種原料の粒子径調整などが必要ですが、それらの膨大な処方を実際の装置でテストすることは非現実的です。
そこで従来の工程で問題の無かった粉体特性を入手して、OD錠原料あるいは混合品・造粒品の粉体特性をそれに合わせる方法が知られています。粉体特性の中でも流動性あるいは噴流性に関わる各種の値の違いがトラブルを発生させることがよくあります。したがって安息角、かさ密度(ゆるめ、固め)、崩潰角、スパチュラ角、およびそれらの数値から計算されるCarrの流動性指数あるいは噴流性指数を測定しておくことが重要です。
パウダテスタ PT-X
これらの特性値を測定するために安価な治具が用いられることもありますが、測定者による違いが大きく表れます。また測定条件によって値が大きく変わることが知られており、この欠点を解消する測定器が必要です。
パウダテスタ PT-Xは、世界中でデファクトスタンダードの装置として使われています。
パウダテスタは医薬品だけではなく、様々な粉体に適用されており、その一部(300種類の粉体)の測定結果を当社Webサイトで公開しています。詳しくは技術情報:粉体特性のページを参照して下さい。
エアージェットシーブ e200LS
その他の重要な測定項目として、ふるい分けが挙げられます。これは日米欧の薬局方に記載されている重要な品質管理法です。減圧吸引型の乾式ふるい分け装置であるエアージェットシーブは結晶セルロースの確認試験用に世界中で使われています。
ヴィブレット VBL-F
また湿式のふるい分け装置であるヴィブレット VBLは、OD錠の崩壊剤として注目を浴びているクロスポビドン(ポリビニルピロリドン)の粒度試験に用いられています。
不溶性クロスポビドンは局方(日本薬局方では第17改正)において、ふるい上に残った粉体の質量により二種類のタイプ(タイプAとタイプB)に区分されます。このとき、湿式ふるい分けを使うことが記されています。(詳しくは 独立行政法人医薬品医療機器総合機構のウェブサイトで提供されている日本薬局方第17改正の722頁、粒度の項を参照)。
しかし不溶性クロスポビドンは水によって膨潤するために、ふるい分けは困難です。
シャワーによるサンプルの分散
一般的な乾式ふるい分け機にシャワー機構を備えた装置を使う方法は安価ですが、均一に散水することが難しく、サンプルの分散状態が良好ではありません。
また不溶性クロスポビドンは加水により膨潤するため、水が通過しにくくなります。よって溢れないように注意しながら散水しなければなりません。このため散水の勢いを弱めざるを得ず、サンプルの分散が抑制され、ふるい分け効率が落ちる問題があります。
粉体だけでなく、錠剤の評価も可能です。一般的に錠剤の物理評価としては硬度、摩損度、溶出特性などを測定します。OD錠にはこれ以外に、口腔内での崩壊の様子とそれに関連した吸水速度が重要な因子になります。
最近、ペネトアナライザ PNT-Nにより測定された水の浸透挙動から崩壊剤の配合量、圧縮条件を効率的に検討できることが報告されており(鷹取、日本薬剤学会 第31年会講演要旨集、水浸透試験法を用いた速崩壊性錠剤の設計, 235 (2016))注目を浴びています。
ペネトアナライザ PNT-N
OD錠一錠を測定できるコランタセル
コランタセルによるOD錠の吸水性評価の例
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